10月13日と15日に、相次いで「同一労働同一賃金」についての最高裁判決が出されました。
かなり注目を集めた判決であり、ニュース等でも大々的に報道されたので、ご覧になった方も多かったことと思います。
詳細についてはまた別の機会に譲りますが、ここでは気になる点を一つだけ。
それは、正規労働者がこの判決をどう見たかということ。
そもそも同一労働同一賃金とは、非正規労働者と正規労働者の不合理な待遇格差を禁止するものです。
今回の裁判も、賞与、退職金、諸手当、休暇等をめぐって、非正規労働者が正規労働者との間で格差があるのはおかしいとして会社を訴えていたものです。
つまり、同一労働同一労働をめぐる争いは「使用者 vs 労働者」ではなく、正確に言うと「使用者 vs 非正規労働者」であるわけです。
よって、正規労働者は、この争いの直接的な当事者ではありません。
今回の判決をものすごく簡単に言うと、まず、賞与・退職金については「不合理ではない」として不支給が認められました。
一方、一部の手当・休暇については「不合理である」として支給すべきと判断されました。
ここでいう「不支給」「支給」は、いずれも非正規労働者に対するものであって、正規労働者は関係ありません。
ただ、正規労働者が今回の最高裁判決に全く関係ないかというと、実はそうとも言い切れない側面があるのです。
例えば、限られた人件費の中で非正規労働者の賃金を上げるために、やむなく正規労働者の賃金を減額しようとする企業が出てくるかもしれません。(注:不利益変更の問題が生じるので簡単にできることではありません)
あるいは、実際には賃金は減額されていないけれど、非正規労働者の待遇が上がったことで相対的に自分の待遇が下がったように感じる正規労働者もいるかもしれません。
最高裁判決に対して、多くの「労働者」の声が報じられていますが、それらは専ら「非正規労働者」の声であって、「正規労働者」がこの判決をどう受け取ったかという声ががあまり報道されていないように思うのです。
あくまでも正規社員の “一部” の声ではありますが、賞与・退職金の不支給については「当然だよね」という声や、一部の手当・休暇の支給については「納得がいかない」というように、非正規労働者とは真逆の反応を示しているものも見受けられます。
このように、非正規労働者の待遇が上がることに対して不満を感じる正規労働者が少なからずいるであろうことは、以前から指摘されていたことではあります。
誤解のないように申し上げておきますが、私は同一労働同一賃金の主旨に反対しているわけではありませんし、正規労働者あるいは非正規労働者のどちらかにだけ肩入れをしようということでもありません。
言いたいことは、同一労働同一賃金を推し進めると、「あちら立てればこちらが立たず」ということが起こってしまう危険性があるということ。
もう少しはっきり言うと、非正規労働者の待遇改善をすることで正規労働者からの反発を受けることがありうるということです。
この点が、企業が同一労働同一賃金に対応するうえでの難しさの一つであると言えるのではないでしょうかね。