希望退職制度と早期退職制度は似て非なるもの

希望退職制度と早期退職制度は似て非なるもの人事労務管理

このところ、名の知れた上場企業の希望退職・早期退職のニュースを連日のように目にします。
下記はそのうちの一部。
ネットで情報を漁れば他にも驚くほどゾロゾロと出てきます。

  • 10月27日発表 日立金属が1,000名
  • 10月30日発表 LIXILが1,200人
  • 11月4日発表 三菱ケミカル(募集人数は定めず)
  • 11月6日発表 セガサミーHDが650名
  • 11月9日発表 タムロンが200名
  • 11月9日発表 東芝テックが465名
  • 11月10日発表 青山商事(洋服の青山)が400名
  • 11月11日発表 三菱製鋼が100名

今年の上場企業の希望退職・早期退職者の募集は10月29日までに70社にも達しており、昨年1年間のすでに2倍超。
年間で70社を超えるのはリーマンショックの影響があった2010年の85社以来10年ぶりなのだそう。

その要因は必ずしも新型コロナ感染症だけではないようですが、大きく影響したことは間違いないでしょう。

ところで、希望退職制度と早期退職制度-
法律上の定義があるわけではないので混同されがちですが、本来は異なる趣旨のものです。

希望退職制度とは

一般的に希望退職制度とは、経営難等からくる経費削減を目的とした臨時的な人員整理の施策であって、整理解雇の前段階といえます。
「希望」と名の付くぐらいですから、原則として従業員の自由意志に基づくものではあります。
ただし、希望者が少ない場合には会社側から個別に打診するケースもあり得ます。

いずれの場合も、会社側からの働き掛けによるものなので、雇用保険上は「特定受給資格者」として会社都合退職の扱いを受けます。

早期退職制度とは

一方、早期退職制度とは、組織の若返りや活性化、従業員のキャリア選択の幅を広げることを目的とした恒常的な仕組みです。
原則として従業員の自由意志に基づくものではありますが、会社によっては個別に打診するケースも見受けられます。

自由意志で退職する場合は、雇用保険上は「一般の離職者」として自己都合退職の扱いを受けます。
ただし、会社からの個別の働きかけがあった場合は「特定受給資格者」として会社都合退職の扱いを受けることとなります。


希望退職にせよ早期退職にせよ、何も条件を提示せずに募っても応募する者は限られるでしょう。
よって、「退職金の割り増し」や「再就職の支援」などの優遇措置を設けることが一般的です。
前述の事例のように、数百人から1千人規模での退職となると、莫大な退職金を一気に支払うことになるので、そのあたりは会社にとってはデメリットとなるでしょう。

さらに、会社にとってのデメリットとして考えられるのは、辞めて欲しくない優秀な人材が退職してしまうリスクがあることです。
そのあたりもよくよく考えて制度設計をする必要があります。

また、特に希望退職については「解雇」の問題が生じがちです。
希望退職に応じるように圧力をかけたり強要するなどした場合は、実質的に「解雇」されたものであるとして訴訟に発展するケースなどは割とよくある話です。

新型コロナ感染症の影響で、希望退職・早期退職は今後ますます増加していくだろうと見込まれています。
特に希望退職は解雇(整理解雇)を回避するために行われる制度であるはずなのに、制度設計と運用を誤ったばかりに結局は解雇として訴えられてしまうようでは元も子もありません。

くれぐれも慎重に事を運びましょう。