顧問先の社長から、残業を減らすために「○○を△△するような仕組みを作りたい」とのご要望。
ところがその仕組みでは労働基準法に抵触してしまいます。
そのことを告げると、「いや、でも知人の会社ではその仕組みを取り入れている」と。
おそらくは法に触れることを知らずに取り入れちゃったのでしょう。
そう伝えると、「いや、労働基準監督署にお墨付きをもらっていると言っていた」と。
そんなはずはありません。○○を△△することは間違いなく労基法に違反します。
「でも、その仕組みを就業規則に定めて届出をしたところ、労基署でちゃんと受理されたと言っていた。表紙の受領印も見せてもらったんで間違いない」と。
就業規則を労働基準監督署に届け出ると、その控えに受領印が押印され戻されます。
しかし、これが勘違いの元。
実際に届出を行ったことがある方であればわかると思うのですが、労基署では届出の際に条文をひとつひとつ詳細にチェックするわけではありません。サッと目を通してバスンっと受領印を押すケースがほとんどです。
就業規則は法令に反してはならない(労基法第92条1項)とされていますし、必要記載事項に漏れがあってもいけません。(労基法第89条 詳しくは前回の記事)
ただし、仮にそのような不備があったとしても、その就業規則の全てが無効となるわけではないとされており、労基署としてはそのことを前提に受領しているにすぎません。
よって、受領したことをもって就業規則の内容がすべて適法であるとか記載漏れがないとかにお墨付きを与えたわけではないのです。
これってけっこう怖いことだと思いませんか?
労基署は法令に抵触する就業規則の変更を命じることができる(労基法第92条2項)とはされています。これは、法令に抵触する就業規則をそのまま放置すると、その内容が実際に適用されて従業員が不利益を被ることになりかねないのでそれを防ごうとする為です。
しかし、前述の通り、労基署では届出の際に条文をひとつひとつ詳細にチェックするわけではないので、実際に変更を命じるケースは限られます。
つまり、出来上がった就業規則が法令に抵触していないかどうかや記載漏れがないかどうかの詳細なチェックは誰もしてくれないのです。
結果として、不備のある就業規則が不備があると気づかれないまま「お墨付きを得た」として見過ごされていることは、それほど珍しいことではないのです。
貴社では、就業規則を作成・変更した際に、不備が無いかどうか自社できちんとチェックをしましたか?
もしチェックをしていないまま、あるいはチェックはしたけれどそれが甘いまま届出してしまった場合は、労基署の受領印を「お墨付き」と考えていては大変な事態となりかねません。
先ほどの会社のケースのように、不備のある就業規則だと気づかずにその就業規則に則って労務管理を行うことで、知らず知らずのうちに法違反の状態となっているかもしれません。
ねっ、怖いでしょ?