働き方改革により長時間労働者に対する面接指導が拡充された

働き方改革により長時間労働者に対する面接指導が拡充された 働き方改革

働き方改革により、労働安全衛生法が改正され、2019年(平成31年)4月から『長時間労働者に対する面接指導』の実施要件が拡充されました。

とはいえ、「めんせつしどう…って何? 誰が『面接』するの? 何を『指導』するの?」
そう思われる方が大半ではないでしょうか。

長時間労働者に対する面接指導とは

『長時間労働者に対する面接指導』の制度は、これまでも労働安全衛生法に設けられていました。
この制度では、長時間労働による疲労の蓄積により健康障害発症のリスクが高まった労働者に対して、医師が、その勤務状況・疲労の蓄積の状況を把握し、これに応じて本人に必要な指導を行うこととされています。
また、事業者は面接指導の結果について医師の意見を聴き、必要な措置を講じることとされています。

誰に 長時間労働による疲労の蓄積により健康障害発症のリスクが高まった労働者に
誰が 医師が
何をする 勤務状況・疲労の蓄積の状況を把握し、これに応じて本人に必要な指導を行う
その結果について 事業者は、医師の意見を聴き必要な措置を講じる

対象となる労働者の要件が強化された

長時間労働者に対する面接指導の対象となるのは、時間外・休日労働時間が月80時間を超えた者で、かつ、疲労の蓄積が認められた者です。
この者が、事業者に面接指導を申し出た場合に、事業者は面接指導を実施しなければなりません。

改正前は、時間外・休日労働時間が月100時間を超えた者が対象だったので、要件は拡充されたことになります。

また、時間外・休日労働時間が月100時間を超えた研究開発業務従事者と、健康管理時間が週40時間を超えた時間について月100時間を超えた高度プロフェッショナル制度適用者は、申し出がなくても面接指導を実施しなければなりません。

その他、努力義務も含めて、まとめると次の通りとなります。

通常の労働者(管理監督者・裁量労働制を含む)
  • 義務
    時間外・休日労働が月80時間超
    疲労の蓄積があり
    面接を申し出た者
  • 努力義務
    事業主が自主的に定めた基準に該当する者
    (月80時間超の時間外・休日労働を行った者については、申出がない場合でも面接指導を実施するよう努める)
    (月45時間超の時間外・休日労働で健康への配慮が必要と認めた者については、面接指導等の措置を講ずることが望ましい)
研究開発業務従事者
  • 義務
    時間外・休日労働が月100時間超の者
  • 義務
    時間外・休日労働が月80時間超
    疲労の蓄積があり
    面接を申し出た者
  • 努力義務
    事業主が自主的に定めた基準に該当する者
    (月80時間超の時間外・休日労働を行った者については、申出がない場合でも面接指導を実施するよう努める)
    (月45時間超の時間外・休日労働で健康への配慮が必要と認めた者については、面接指導等の措置を講ずることが望ましい)
高度プロフェッショナル制度適用者
  • 義務
    健康管理時間が週40時間を超えた時間について月100時間超の者
    (健康管理時間とは、事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間との合計)
  • 努力義務
    上記の対象者以外で面接を申し出た者

会社が行うべき面接指導の実施

1.労働時間の状況の把握

『長時間労働者に対する面接指導』は時間外・休日労働が月80時間超あるいは月100時間超で対象となるわけですから、その前提として労働時間を適正に把握する必要があります。
そのことは、今般改正された労働安全衛生法に、「面接指導を実施するため、(中略)…労働時間の状況を把握しなければならない」と定められていることからも明らかです。

労働時間の適正な把握については、下記の記事「働き方改革により労働時間の客観的な把握が義務付けられた」にて説明していますので、併せてご覧ください。

なお、改正された労働安全衛生法による「労働時間の状況の把握」は、管理監督者やみなし労働時間制の者も対象となりますが、高度プロフェッショナル制度適用者は対象となりません。
よって、『長時間労働者に対する面接指導』において高度プロフェッショナル制度適用者は、「健康管理時間」(事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間との合計)を把握することとされています。

2.時間外・休日労働が月80時間を超えたら
  • 時間の算定は、毎月1回以上、一定の期日(賃金締切日など)を定めて行います。
  • 事業者は、時間外・休日労働が月80時間を超えた本人に、当該越えた時間に関する情報を通知しなければなりません。
    なお、賃金明細書に時間外・休日労働時間数が記載されている場合には、これをもって労働時間に関する情報の通知としても差し支えないとされています。
  • 事業者は、時間外・休日労働が月80時間を超えた者に関する労働時間等の情報を産業医に提供しなければなりません。
    なお、産業医のいない小規模事業者は、産業保健総合支援センターを活用することができます。
3.面接指導の実施
  • 事業者は、申し出があった者に対し、医師による面接指導を実施しなければなりません。
  • また、研究開発業務従事者は時間外・休日労働が月100時間を超えた場合、高度プロフェッショナル制度適用者は健康管理時間が月100時間を超えた場合、申し出がなくても面接指導を実施しなければなりません。
4.医師からの意見聴取、結果の記録
  • 事業者は、面接指導を実施した者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴かなければなりません。
  • 事業者は、面接指導等の記録を作成し5年間保存しなければなりません。
5.事後措置の実施の際に留意すべき事項
  • 事業者は、医師の意見を勘案して、必要と認める場合は適切な措置を実施しなければなりません。

長時間労働は賃金支払いの問題ではない

ご覧いただいた通り、法改正により『長時間労働者に対する面接指導』が拡充されたわけですが、原則として労働者側からの申し出がなければ実施の義務がない点など、実効性にはやや疑問が残る点が改正されずに残されてしまったというのが正直な感想ではあります。

ただし、前出の通り、『長時間労働者に対する面接指導』は、努力義務として事業主が自主的に定めた基準に該当する者を対象とすることも可能です。
(月80時間超の時間外・休日労働を行った者については、申出がない場合でも面接指導を実施するよう努める)
(月45時間超の時間外・休日労働で健康への配慮が必要と認めた者については、面接指導等の措置を講ずることが望ましい)

長時間労働に関しては、ともすれば残業代の支払いの問題に終始しがちです。
でも、本質はそこではなく、働く人たちの健康と生命にかかわる問題として捉えるべきものであるはずです。
ぜひ、積極的に制度を活用し、職場の健康管理体制を構築していきましょう。