年5日の確実な取得が義務付けられた
働き方改革により、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日について確実に取得させることが義務付けられました。
その理由として、厚生労働省のリーフレットには次のように記載されています。
年次有給休暇の基本的なルール
① 年次有給休暇の発生要件
年次有給休暇は、次の2つを満たした場合に付与されます。
- 一定期間の継続勤務(雇い入れの日から6ヵ月。以降は1年ごと)
- 全労働日の8割以上出勤
② 年次有給休暇の付与日数
勤続期間 | 6ヵ月 | 1年 6ヵ月 |
2年 6ヵ月 |
3年 6ヵ月 |
4年 6ヵ月 |
5年 6ヵ月 |
6年 6ヵ月 以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
週の 所定労働日数 |
1年間の 所定労働日数 |
勤続期間 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
6ヵ月 | 1年 6ヵ月 |
2年 6ヵ月 |
3年 6ヵ月 |
4年 6ヵ月 |
5年 6ヵ月 |
6年 6ヵ月 以上 |
||
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73日~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48日~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
③ 年次有給休暇の取得のルール
なぜ法改正されたのか
年次有給休暇は、一定期間の継続勤務と全労働日の8割出勤という客観的要件を満たせば、法律上当然に発生する権利です。
しかし、権利そのものは発生していても、これを行使するには原則としては労働者が自ら時季を指定して請求する必要があります。
これがネックとなり、「同僚への気兼ねや請求することへのためらい等の理由」で請求したくてもできないという事態に陥りやすく、なかなか取得が進まないというのが実情だったというのは、前掲の厚生労働省リーフレットの通りだと思います。
しかも、このまま取得率が低調だとしても、そのこと自体で会社が法律上とがめられることはありません。
なぜなら、取得には労働者自らが請求する必要があるから。逆の言い方をすると、会社が強制的に取得させることができなかったのです。
例外として計画年休がありますが、これは法律上の義務ではないので必ず採用しなければならないものではありません。
誤解を怖れずに敢えて言えば、これは会社にとって都合が良かったと言えます。
会社側は、労働者が自ら請求してこない限り、そのまま放っておけばよいのですから。仮にそれで取得がゼロだとしても法違反にはなりません。
むしろ、会社が強制的に時季を指定して取得させてしまえば、仮に取得率100%だとしても法違反に問われることになるでしょう。
もっとも、労働者が時季指定権を行使して取得を請求してきたにもかかわらず、これを拒否すれば、もちろん違反に問われます。
この点について、使用者の時季変更権を曲解しているケースが多くみられます。
時季変更権は、労働者の指定した時季に取得させることが、事業の正常な運営を妨げる場合に他の時季に変更することができるものであって、取得そのものを拒否できるものではないのです。
また、”変更権”とは言うものの、変更後の時季を会社が指定できるわけではありません。よって時季変更権を行使された労働者は改めて別の時季を指定することになります。
さて、このように、これまでの年次有給休暇は、発生においても取得においても「労働者の権利」であることは明白であるものの、「使用者の義務」については発生においては明白であるものの、取得においては少し弱く曖昧な印象がありました。
使用者には取得日数については義務がなく、発生の義務さえ果たしていれば、取得の義務は労働者の請求次第だったわけです。
こうしてみると、労働者の時季指定権が、年次有給休暇の取得促進の足枷となっていたのではないかという気がしてきます。
時季指定権は「取りたい時季に取得できる」という労働者の権利ですが、それを強調しようとするあまり結果的に「取りにくい」という事態を招いていたのではないでしょうか。
むしろ、弱く曖昧な印象がある使用者の取得の義務を、「時季指定義務」として課した方が取得は進むのではないかという意見は、これまでにも少なからずあったのです。
使用者の時季指定義務
2019年4月の労働基準法の改正は、この「使用者の時季指定義務」を定めたものです。
まとめ
さて、ご覧いただいた通り、年次有給休暇の取得の方法として、新たに「使用者による時季指定」が定められました。
これにより、これまでの2つだった取得方法が3つになったことになります
- 労働者の時季指定
- 計画年休
- 使用者の時季指定
この3つの方法の全部または一部を使って、年5日を確実に取得させるというのが今般の法改正の主旨です。
ただし、既に「① 労働者による時季指定」と「② 計画年休」の方法で年5日請求・取得している場合は、「③ 使用者による時季指定」を使う必要がなく、また、使うことはできません。
つまり、法改正前から①と②の方法だけで年5日の取得が難なくできていた会社であれば、法改正後も③の方法を使わなくても年5日の確実な取得は達成できてしまうというケースは大いに考えられるわけです。
一方で、今までも取得が難しかった会社であれば③の方法を積極的に使っていく必要があるでしょう。
なお、③は、ただ時季を指定しさえすればよいだけでなく、実際に取得させなければ義務を果たしたことになりません。
よって、例えば、労働者が、使用者の時季指定を拒否して自らの判断で勤務した場合であっても、使用者は法違反に問われることになるので注意が必要です。
法改正から時間が過ぎました。
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