新型コロナウイルスの影響で従業員を休ませる場合の休業手当

新型コロナウイルスの影響で従業員を休ませる場合の休業手当新型コロナウイルス

休業手当については、労働基準法第26条に、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」と定められています。

一方、民法536条2項にも同じような定めがあり、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には賃金を全額受ける権利があるとされています。

労基法では6割なのに民法では全額とされているわけですが、これは「使用者の責に帰すべき事由」の範囲に違いがあることによります。
民法の場合は、「使用者の故意・過失または信義則上これと同視すべき事由」と解されているのに対して、労基法は「使用者側に起因する経営・管理上の障害による事由」をも広く含むと解されているのです。

下記にいくつかのケースを紹介していますが、新型コロナウイルス感染症の影響による休業は、「使用者の故意・過失または信義則上これと同視すべき事由」には当たらないものがほとんどかと思います。
よって、ここでは労基法上の休業手当に焦点を絞って説明していくことにします。

令和2年3月18日時点の「厚労省 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」の情報をもとにしています。

感染者を休業させる場合

新型コロナウイルスは「指定感染症」に定められています。
都道県知事は感染者に対して就業制限や入院措置を勧告できるものとされており、今はまさにこの状態にあります。
よって、この場合による休業は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たらず、休業手当の支払い義務はありません。

ただ、このままでは感染者の収入が途絶えてしまいます。
これに対しては次の二つの方策が考えられます。

年次有給休暇の取得

感染者本人から年次有給休暇取得の請求があった場合には、年次有給休暇を付与し、賃金を支払うことになります。ただし、あくまでも本人からの請求によるものでなくてはならず、使用者において一方的に取得させることは労働基準法に違反します。

傷病手当金の受給

感染者が健康保険の被保険者であれば、要件を満たせば、申請により傷病手当金が支給されます。傷病手当金は、業務外の傷病の療養のために労務不能であると医師が診断したときに支給されるものですが、感染者はまさにこれに該当します。
具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して4日目以降の日に対して、直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2の額が支給されます。

感染が疑われる者を休業させる場合

濃厚接触者であるとして保健所等の行政の要請により休業させる場合については、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たらず休業手当の支払い義務はありません。

一方で、「感染者」でもなく、「濃厚接触者であるとして保健所等の行政の要請があった者」でもないが、「感染が疑われる者」として万が一に備えて使用者の判断により休業させる場合は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たり休業手当を支払う必要があります。

収入が途絶えてしまうことに対する対策として「年次有給休暇の取得」と「傷病手当金の受給」については前述の通りです。
ただし、使用者の判断により休業させる場合で、症状が軽いケースでは傷病手当金が支給されないことも考えられます。傷病手当金は、業務外の傷病の療養のために労務不能であると医師が診断したときに支給されるものなので、症状が軽ければ医師が労務不能と認めないことが考えられるからです。

なお、新型コロナウイルス感染症に関する傷病手当金の支給については、厚生労働省より健康保険組合に対するQ&Aが出ていますので、参考にしてください。

従業員が自主的に休む場合

咳や発熱の症状があるために本人が自主的に休む場合は、通常の病欠と同じ扱いとなりますので、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たらず休業手当の支払い義務はありません。

この場合も、本人の請求があれば年次有給休暇を取得させることになりますし、健康保険の被保険者であれば、要件を満たせば、傷病手当金が申請により支給されます。

事業の休止や縮小に伴う休業の場合

新型コロナウイルス感染症の影響により事業の休止や縮小などを余儀なくされたことにより休業させる場合は、原則としては「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たり休業手当を支払う必要があると考えられます。
厚労省のQ&Aでは、不可抗力の場合は休業手当の支払義務はないとされていますが、かなり限定的な場合ではないかと思われます。

なお、新型コロナウイルス感染症の影響により事業の休止や縮小などを余儀なくされた事業主に対して雇用調整助成金の特例が設けられています。詳細は、「厚労省 雇用調整助成金」を参照してください。

小学校等の臨時休校に伴い保護者が休んだ場合

会社が当該保護者を休業させたわけではないので「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たらず休業手当の支払い義務はありません。

本人の請求があれば年次有給休暇を取得させることになりますが、年次有給休暇とは別に有給の休暇を取得させた場合に支給される新たな助成金制度が創設されました。詳細は、「厚労省 新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」を参照してください。