タイムカードの不正打刻 見逃せば会社は壊れます

タイムカードの不正を見逃せば会社が壊れます 人事労務管理

学生の頃に「代返」をした経験のある方って、そこそこいらっしゃるんじゃないでしょうか?
もちろん代返は、依頼することも依頼されることも不正な行為です。
でも、まぁ、若気の至りといいますか… 
正直言って私もやったことがあります。
ごめんなさい。もうしません。

タイムカードの不正とは

学生時代は、悪ふざけの延長として済まされたかもしれませんが、会社ではそうはいきません。
タイムカードを同僚に押させ、不正に遅刻や早退を免れる行為は、それに協力することも含めて絶対に許されるものではありません。

このような「代返」に相当するような不正を含めて、タイムカードの不正行為は、次のようなことが考えられます。

  • 欠勤や遅刻・早退をしたにもかかわらず、その事実を隠すため同僚に打刻させる。
  • 定時に出勤しておきながら、早出出勤した同僚に打刻を依頼し、自分も早出出勤したように偽る。
    あるいは、定時に退勤しておきながら、残業する同僚に打刻を依頼し、自分も残業したように偽る。
  • 打刻し忘れたふりをして、あとで不正な時刻を手書きする。
  • タイムレコーダーを不正に操作して、事実と違う時刻を打刻する。

タイムカードの不正は会社を壊しかねない

2017年(平成29年)に厚生労働省が定めた『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』と、2019年(平成31年)4月施行の改正労働安全衛生法により、使用者には労働時間を客観的に把握することが求められています。

その、方法として挙げられているものの一つがタイムカード。
HRテックを用いた勤怠管理システム(SmartHR、人事労務freee、ジョブカンなど)を利用する企業が徐々に増えつつあるとはいえ、まだまだタイムカードを使用している企業は多いでしょう。
タイムカードは、今でも労働時間の適正管理のための有効な手段のひとつに違いありません。

これを不正に操作することは、労働時間管理の信憑性を揺るがすものです。

遅刻をしたにもかかわらず、タイムカードを他人に押させ何食わぬ顔をしている従業員がいては、職場の風紀の乱れに繋がります。
時間通りに出勤することがバカらしく思えてくるようにでもなってしまっては、職場全体の士気に関わります。
風紀が乱れ、士気が下がれば、業績にさえ影響が出てきてしまいかねないのです。

まずはその意味からもタイムカードの不正は絶対に見逃すべきではありません。

タイムカードの不正により受ける罰

そもそも、タイムカードの不正打刻は詐欺罪に該当する怖れがあります。
欠勤、遅刻・早退を不正に隠して賃金を受けることや、してもいないのに残業したように偽り残業代をせしめることは、刑法246条1項の「人を欺いて財物を交付させた」に該当する可能性があるからです。

詐欺罪は最長で懲役10年が科される重い犯罪です。
ただし、タイムカードの不正で実際にその罪を受けることはあまり多くはないでしょう。

一方、企業においては、タイムカードの不正打刻は懲戒解雇という重い処分の対象となりえます。

この場合は、単に打刻し忘れなどに起因するものではなく、その目的が「悪質」であるかという点が問われることになるでしょう。
欠勤、遅刻・早退を隠して賃金を受ける目的や残業したように偽り残業代をせしめる目的で不正打刻したようなケースは「悪質」であると判断できるといえます。

昭和42年の最高裁判決では、「タイムカードを他の社員に打刻させた場合は解雇する」という就業規則上の注意書きを掲示していた場合に、出勤しなかった同僚のタイムカードを打刻した従業員の懲戒解雇を有効としました。

ここで重要なのは、タイムカードの不正打刻が懲戒解雇になりうることを、あらかじめ就業規則に明記し周知することです。
これを怠ると、懲戒解雇が有効と判断されない可能性が高まります。

タイムカードの不正にまつわる驚くべき体験

私が会社員だった頃、一部の部下たちの間でタイムレコーダーを不正に操作して打刻するという行為が度々行われていました。
それは、打刻をし忘れた者が、後からタイムレコーダーの時刻を操作して打刻し、最初からちゃんと打刻していたように偽るというものでした。

実際の出退勤の時刻を後から打刻しているだけで、事実と異なる時刻を打刻していたわけではありません。
ただし、この行為を見逃していると、遅刻をなかったことにしたり、してもいない残業をしたことにしたりという「人を欺いて財物を交付させる」「悪質な」目的に変容する怖れがあります。

私が、部下のこの行為を知ったのは、その会社に転職してすぐのこと。
なぜ知ったかというと、その行為が上司である私の目の前で行われたから。

この会社は、タイムカードの打刻洩れに厳しく、部下の打刻洩れがあると上司は上からきつく叱責されます。
私の前任者はそれを避けるために、部下に打刻洩れがあった場合に不正打刻を命じていたのです。
なんとも驚くべき真相!

元々、上司に命じられてやっていたことなので、部下たちは何ら悪びれることもなく新任上司である私の目の前でその行為に及んだという次第。
もちろん、きつく注意しましたが、部下たちは何が悪いのかさっぱりわかっていない様子でした。

きちんと理解させ、これ以降は打刻洩れ自体がほぼ無くなりました。
しかし、そもそも、なぜ以前はそんなに打刻洩れが頻発していたのでしょう? 打刻洩れに厳しい会社だったのに。
今もって謎のままです(笑) 

タイムカードの不正はダメ。ゼッタイ。

さて、今回は、タイムカードにまつわる従業員側の不正についての話でした。

一方で、会社側が不正を働くケースも後を絶ちません。
残業代の支払いを逃れるために行われるケースがほとんどかと思いますが、労働基準法違反となる他、未払残業代請求として訴訟リスクもあります。

従業員も、会社も、タイムカードの不正はダメ。ゼッタイ。