パワハラ防止法で企業がすべきこと

パワハラという言葉が使われるようになったのは、セクハラよりも10年以上遅い2001年(平成13年)だと言われています。
都道府県労働局にある総合労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は2012年以降は相談内容で最も多く、また、2017年の厚生労働省の報告によれば、約3人に1人が過去3年以内にパワハラを受けたことがあるとされています。
このように深刻な社会問題になっているにもかかわらず、これまで、パワハラの定義や防止措置を定めた法律はありませんでした。
そこで、令和の時代になってようやく成立したのが改正労働施策総合推進法、そう、通称パワハラ防止法です。
いつから
パワハラ防止法は、大企業と中小企業で施行日が異なります。
- 大企業:2020年6月1日施行
- 中小企業:2022年4月1日施行
(2022年3月31日までは努力義務)
ここでいう中小企業とは、次の表のとおり「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者数」のいずれかが表中の基準に該当するものを言います。
また、事業場単位ではなく企業単位であることに留意する必要があります。
業種 | 資本金の額 または出資の総額 |
または | 常時使用する 労働者 |
---|---|---|---|
小売業 | 5,000万円以下 | または | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | または | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | または | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | または | 300人以下 |
雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられた
パワハラ防止法は、事業者にパワハラの防止措置を義務付けるための法律です。
よって、パワハラ行為そのものを禁止し、直接的にその行為に対しての罰則を設けるものではありません。
あくまでも、パワハラ行為を防止する為の対策を講じることを義務付けたというものです。
- 事業主の方針等の明確化し、その周知・啓発を行うこと
- 職場におけるパワハラの内容、パワハラを行ってはいけない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する。
- 行為者について厳正に対処する旨の方針、対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発する。
- 相談(苦情も含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
- 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する。
- 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにする。
- 職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応を行うこと
- 事実関係を迅速かつ正確に確認する。
- 事実確認ができた場合は、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行う。
- 事実関係が確認できた場合は、行為者に対する措置を適正に行う。
- 再発防止に向けた措置を講ずる。(事実確認ができなかった場合も同様に)
- その他
- 相談者、行為者等のプライバシーを保護するための措置を講じ、その旨を労働者に周知する。
- 相談したこと等を理由として、解雇その他の不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する。
職場におけるパワーハラスメントとは
パワハラ防止法では、職場におけるパワハラとは、職場において行われる次の①~③までの要素を全て満たすものをいいます。
- 優越的な関係を背景とした言動であって
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの
「職場」の範囲は広い
パワハラ防止法における「職場」とは、通常就業している場所以外であっても、業務を遂行する次のような場所であれば含まれます。
【例】出張先・業務で使用する車中・取引先との打ち合わせ先など
また、勤務時間外であっても、実質上職務の延長と考えられる次のような場所は「職場」に該当します。
【例】勤務時間外の懇親の場・通勤中・社員寮など
全ての労働者が対象
事業主が雇用する全ての労働者が対象となります。
よって、正規雇用労働者だけでなく、非正規雇用労働者も含まれます。
また、派遣労働者は、派遣先においても雇用する労働者とみなされ対象となります。
「優越的な関係を背景とした言動」とは
- 職務上の地位が上位の者による言動
- 同僚や部下による言動で、言動者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ業務を円滑に行うことが困難であるもの
- 同僚や部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるもの
等々、業務を遂行するにあたって、行為者に対して抵抗または拒絶できない確実性が高い関係を背景に行われる言動を指します。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは
- 業務上明らかに必要性のない言動
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務を遂行するための手段として不適当な言動
- 行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念上に照らして許容される範囲を超える言動
等々、社会通念上に照らし、その言動が明らかに業務上必要性がない、またはその態様が適当でないものを指します。
「労働者の就業環境が害されるもの」とは
- その言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、
- …労働者の就業環境が不快なものとなったため、
- …能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の、就業するうえで看過できない程度の支障が生じること。
平均的な労働者の感じ方、つまり、社会一般の労働者が同様の言動を受けたときの感じ方を基準にするとされています。
職場のパワハラの6類型
厚労省は、職場におけるパワハラを6つの分類しています。
① 身体的な攻撃
暴行・傷害
② 精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
③ 人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視
④ 過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
⑤ 過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
⑥ 個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
何から手を付ければいいのか…
職場のパワハラにおいて、従来から実務的に最も頭を悩ませたのは、具体的にどのような言動がパワハラに当たるのかという点ではなかったでしょうか。
パワハラ防止法では、その指針(職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針)により、パワハラの具体例を示すことなどは行われています。
しかし、「社会通念上」とか「平均的な労働者の感じ方」などという言葉が出てくることもあり、実務的に判断に迷うケースは今後も多々生じることと思います。
ただ、そこにあまり固執しすぎると先に進みません。
そもそも、パワハラ防止法は、先に述べた通りパワハラ行為そのものを禁止するものではなく、パワハラ行為を防止する為の対策を講じることを義務付ける法律です。
なので、事業者が行政上の処罰を受けるのは、パワハラ防止法に定める「パワハラを防止するための措置」を怠った場合であって、パワハラ行為そのものについて行政上の処罰を受けることはありません。
よって、まだ何も手を付けていないという事業所にとっての具体的なアクションとしては、まずは就業規則の整備と相談窓口の設置から始めてみるのがよいのではないでしょうか。
特に、就業規則の整備はパワハラ防止法への理解が一気に深まります。
当事務所でも、もちろんお手伝いいたしますよ!
なお、パワハラ行為そのものによって事業者がパワハラ防止法による処罰を受けることはありませんが、安全配慮義務違反や使用者責任による民事上の損害賠償請求の対象とはなりえます。
こうした事態を防ぐ意味でも「パワハラを防止するための措置」をしっかりと整備し実践しましょう。

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