パワハラという言葉が使われるようになったのは、セクハラよりも10年以上遅い2001年(平成13年)だと言われています。
都道府県労働局にある総合労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は2012年以降は相談内容で最も多く、また、2017年の厚生労働省の報告によれば、約3人に1人が過去3年以内にパワハラを受けたことがあるとされています。
このように深刻な社会問題になっているにもかかわらず、これまで、パワハラの定義や防止措置を定めた法律はありませんでした。
そこで、令和の時代になってようやく成立したのが改正労働施策総合推進法、そう、通称パワハラ防止法です。
いつから
パワハラ防止法は、大企業と中小企業で施行日が異なります。
ここでいう中小企業とは、次の表のとおり「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者数」のいずれかが表中の基準に該当するものを言います。
また、事業場単位ではなく企業単位であることに留意する必要があります。
業種 | 資本金の額 または出資の総額 |
常時使用する 労働者 |
|
---|---|---|---|
小売業 | 5,000万円以下 | または | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | または | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | または | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | または | 300人以下 |
雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられた
パワハラ防止法は、事業者にパワハラの防止措置を義務付けるための法律です。
よって、パワハラ行為そのものを禁止し、直接的にその行為に対しての罰則を設けるものではありません。
あくまでも、パワハラ行為を防止する為の対策を講じることを義務付けたというものです。
職場におけるパワーハラスメントとは
パワハラ防止法では、職場におけるパワハラとは、職場において行われる次の①~③までの要素を全て満たすものをいいます。
- 優越的な関係を背景とした言動であって
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの
「職場」の範囲は広い
パワハラ防止法における「職場」とは、通常就業している場所以外であっても、業務を遂行する次のような場所であれば含まれます。
【例】出張先・業務で使用する車中・取引先との打ち合わせ先など
また、勤務時間外であっても、実質上職務の延長と考えられる次のような場所は「職場」に該当します。
【例】勤務時間外の懇親の場・通勤中・社員寮など
全ての労働者が対象
事業主が雇用する全ての労働者が対象となります。
よって、正規雇用労働者だけでなく、非正規雇用労働者も含まれます。
また、派遣労働者は、派遣先においても雇用する労働者とみなされ対象となります。
「優越的な関係を背景として言動」とは
業務を遂行するにあたって、行為者に対して抵抗または拒絶できない確実性が高い関係を背景に行われる次のような言動を指します。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは
社会通念上に照らし、その言動が明らかに業務上必要性がない、またはその態様が適当でない次のような言動を指します。
「労働者の職業環境が害されるもの」とは
平均的な労働者の感じ方、つまり、社会一般の労働者が同様の言動を受けたときの感じ方を基準にするとされています。
職場のパワハラ6類型
厚労省は、職場におけるパワハラを6つの分類しています。
① 身体的な攻撃
暴行・傷害
② 精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
③ 人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視
④ 過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
⑤ 過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
⑥ 個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
何から手を付ければいいのか…
職場のパワハラにおいて、従来から実務的に最も頭を悩ませたのは、具体的にどのような言動がパワハラに当たるのかという点ではなかったでしょうか。
パワハラ防止法では、その指針(職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針)により、パワハラの具体例を示すことなどは行われています。
しかし、「社会通念上」とか「平均的な労働者の感じ方」などという言葉が出てくることもあり、実務的に判断に迷うケースは今後も多々生じることと思います。
ただ、そこにあまり固執しすぎると先に進みません。
そもそも、パワハラ防止法は、先に述べた通りパワハラ行為そのものを禁止するものではなく、パワハラ行為を防止する為の対策を講じることを義務付ける法律です。
なので、事業者が行政上の処罰を受けるのは、パワハラ防止法に定める「パワハラを防止するための措置」を怠った場合であって、パワハラ行為そのものについて行政上の処罰を受けることはありません。
よって、まだ何も手を付けていないという事業所にとっての具体的なアクションとしては、まずは就業規則の整備と相談窓口の設置から始めてみるのがよいのではないでしょうか。
特に、就業規則の整備はパワハラ防止法への理解が一気に深まります。
当事務所でも、もちろんお手伝いいたしますよ!
なお、パワハラ行為そのものによって事業者がパワハラ防止法による処罰を受けることはありませんが、安全配慮義務違反や使用者責任による民事上の損害賠償請求の対象とはなりえます。
こうした事態を防ぐ意味でも「パワハラを防止するための措置」をしっかりと整備し実践しましょう。