正社員用の就業規則はあるけれど、パートタイマー規程などは作っていません。これって作らないとダメですか?
割とよく受ける質問です。
そして実際に、正社員用就業規則はあるけれどパートタイマー規程などは作成していないという会社は意外と多く見受けられます。
「作らないとダメですか?」という質問には、言外に「作らなくても問題ないですよね?」という意味が含まれているように感じられます。
作成していない会社が多いというのも、作らなくても問題ないと思っていることの表れなのではないかと。
結論から言うと、正社員以外にパートタイマーや有期契約者などの非正規社員がいるのであれば、その者たちを対象とした就業規則は必要です。
ただし、一つの就業規則の中に正社員についても非正規社員についても全て盛り込んでしまえば、わざわざ別冊として「パートタイマー規程」や「有期契約者規程」などを作成する必要はありません。
ん? なんだかわかったような、わからないような…
はい。では説明していきましょう。
就業規則は全ての労働者を対象としなければならない
労働基準法89条では、常時10人以上の労働者を使用する事業主に就業規則の作成と届出が義務付けています。
そして、そこには対象となる労働者の範囲については何ら限定されていません。
よって、就業規則の作成と届出の義務は正社員だけに限定されるものではなく、パートタイマーなど非正規社員も含めた全ての労働者に及ぶものとなります。
もし、あなたの会社に常時10人以上の従業員がいて、その中に非正規社員がいるにも関らず、それらの者を除外して正社員のみを適用対象とする就業規則しか作成していないのだとすれば、労働基準法違反に問われることになってしまいます。
従業員が10人以上の会社ともなると、正社員だけでなくパートタイマーや有期契約者などの非正規社員も雇用しているケースが多いことでしょう。
これらの雇用形態を、それぞれどのように定義付けるかは会社によって異なります。
ただ、共通して言えることは、それぞれの労働条件に何らかの違いがあるということ。
雇用期間だったり、労働時間や休日だったり、賃金・賞与・退職金だったり、あるいは休職制度だったり… 何一つとして違いがないのであれば雇用形態を区分する必要がないはずです。
前述の通り、就業規則は全ての従業員を対象としなくてはなりません。
よって、あなたの会社に労働条件の異なる複数の雇用形態があるのであれば、その雇用形態の全てを就業規則の中に網羅して労働条件を書き分けていく必要があるのです。
それを一冊の中で書き分けてもいいですし、別規程にして書き分けてもいいです。
とにかく、正社員のことだけを書いて非正規社員のことはどこにも何も書かれていないという状態だと法律違反となってしまうのです。
正社員以外の者は別規定として定めるのがベター
では、一冊の中で書き分けるのと別規程にして書き分けるのとでは、どちらを選ぶべきか?
究極的には好みの問題といえるのかもしれませんが、別規程として作成することをお勧めします。
一冊の中で書き分けようとすると、「本条の規定はパート等には適用しない」「パートタイマー等については、本項とは別に次のように定める」などとその都度書かなければならないので作成自体がまず面倒です。
そして何よりも、複数の雇用形態の労働条件が一冊の中に混在しているというのは誰が見ても非常に分かりづらいといえるでしょう。
また、一冊の中で書き分けて作成した場合は、その書き分けが明確でない部分があった場合や、裁判等で非正規社員について定めた部分が無効と判断された場合に、正社員について定めた部分が非正規社員に適用されてしまうといったことも懸念されます。
こうした理由から、少なくとも当事務所で今まで作成してきた規程はすべて別規程として作成してきています。
もちろん、就業規則を雇用形態別に別規程として作成することは法令上も認められています。
なお、別規程として作成した場合は、それらも全て合わせて就業規則となるので、法令上の4つの義務(就業規則の「作成」「届出」「意見聴取」「周知」の義務)は別規程にも及びます。
よって、正社員用の就業規則(本則)だけ労働基準監督署に届出をして、パートタイマー規程は届出をしないという状態では法令違反となってしまいます。
規程ごとの対象者を明確にすることが重要
別規程として作成する場合は、就業規則本則に次の2点の規定を設けることが重要です。
- 別規程の対象となる従業員を適用除外とする規定を設ける。
規定例「この規則は正社員に適用するものとし、正社員以外には適用しない」 - 適用除外した者には別規程を適用する旨の委任規定を設ける。
規定例「パートタイマーについては別に定めるパートタイマー規程による」
ここでよく問題となるのが、このように本則に適用除外規定や委任規定を設けたけど別規程を作っていなかった場合。
その場合は、単に労基法89条の作成義務に違反するだけにとどまらず、非正規社員にも正社員規程が適用されてしまうのか?
あえて適用除外規定や委任規定を設けたうえで正社員のみを適用対象として作成した規程なのに、これを非正規社員に適用させることは無理のある解釈だとして、直ちに非正規社員に適用されると判断されるものではないのではないという考えもあり議論が分かれるところではあります。
ただし、正社員用の規程が適用される恐れは十分にあり得ます。
その意味からも、きちんと別規程を作成しておくべきといえるでしょう。
また、それぞれの別冊規程にも適用対象者が誰なのかを明記しておくことが大切です。
個別の契約書があれば十分なのでは?
「パートタイマーの労働条件については、個別の労働契約書に定める」
本則にこのような委任規定を設けているケースをよく見ます。
このケースは大きく二つのパターンに分かれるでしょうか。
- 本則に記載された内容の大半をパートタイマーに適用させたうえで、部分的に本則ではなく個別の契約書を適用させるというケース
- 本則の内容は一切適用させずに、すべての労働条件を個別の契約書に委ねるケース
②が労基法89条の作成義務違反となることは今まで見てきたとおりです。パートタイマーを対象とした規程が一切存在していないわけですから。
そして、この場合は正社員用の規程が適用される恐れは十分にあり得ることも先述の通りです。
では、①はどうでしょう。
一応、本則を適用させているので労基法89条の作成義務は果たしているよう見えます。であれば何も問題ないようにも思えますが…
しかし、この場合もリスクがあります。
労働契約法12条では「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。 この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」と定められています。
個別の労働契約書の労働条件が就業規則より有利な内容であれば問題はありません。
でも、就業規則の労働条件より下回っている場合は、労働契約書に書かれたその部分は無効となり就業規則の内容が適用されてしまうのです。
つまり、別規程を設けずに、本則に「パートの労働条件については、個別の労働契約書に定める」と明記したとしても、個別の労働契約書の内容が本則の内容を下回っていれば本則の内容が適用されてしまうことになるのです。
よって、ここでもやはり、きちんと別規程を作成しておくべきといえます。
別規程はどこまで細分化するべきか
非正規社員用の規程をどこまで細分化していくかは悩みどころではあります。
パートタイマー、フルタイマー、契約社員、嘱託社員、継続雇用社員… 会社によって様々な雇用形態の従業員がいることでしょう。
さらに、法律上の無期転換制度により、これらは更に有期契約と無期契約にも細分されます。
また、パート・有期労働法による同一賃金同一労働の考え方にも注意を払う必要があります。
雇用形態ごとに全て別規程として作成する方法もありますが、あまりに細分化しすぎるとかえって分かりづらくなってしまう懸念もあります。よって、ある程度まとめてしまった方が良いという考え方もあります。
雇用形態を、それぞれどのように定義付けるかは会社によって異なりますので、それによってどこまで細分化するのかも変わってくることになります。
こうした観点からも、就業規則の作成作業は、やはり一筋縄ではいかないものだなぁと改めて思う次第ではあります。
準用型と完結型はどちらがよいか
非正規社員の別規程を作成する方法として、正社員用の本則と異なる労働条件の部分だけを明記して、共通する部分は「本則の第〇条を準用する」というようにするやり方があります。(準用型)
一方で、本則との共通部分も改めて明記し、独立した別個の規程とする方法もあります。(完結型)
準用型 メリット・デメリット |
完結型 メリット・デメリット |
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本則との違いが分かりやすい | 本則との違いが分かりにくい |
全体にボリュームを減らせる | 全体にボリュームが多くなる |
共通部分に改定がある場合、本則を改定するだけで済む | 共通部分に改定がある場合、本則だけを改定して別規程は忘れがち |
この規程を見るだけでは事足りない(共通部分は本則も見なければいけない) | この規程を見るだけで事足りる |
どちらも一長一短がありますが、「本則の第〇条を準用する」という箇所が随所に登場し、そのたびに本則も参照しなければならないことを思えば、一冊で事足りる完結型の方がベターかなと思います。
まとめ
ご覧いただいた通り、パートタイマー等を対象とした規程については、労働基準法上の作成義務の問題にとどまらず、労働契約上の問題としても捉える必要があります。
正しい認識と知識で就業規則を作成しないと、本来は予定していなかったにもかかわらずパートタイマー等に退職金を支払うことになってしまったというようなことは起こり得るし、また、実際に起こってもいるのです。
経営者の皆様は、ぜひ今一度、就業規則の内容を確認することをお勧めいたします。