最近ネットで調べ事をしていて「んっ?」となったこと。
2025年4月に65歳定年が義務化される
なに? 65歳定年義務化?
更に検索してみると、出るわ出るわ…
「2025年4月から65歳定年義務化」についての記事は検索結果にずらりと並んでいます。
え~!? 知らないぞ !? 初耳だぞ !?
はい。知らなくて当然。初耳で当然。
何故なら、これは誤った情報だから。
全ての記事を読んでみたわけではないので確かなことは言えませんが、少なくともタイトルだけ見れば大きな誤解を招く情報だと言えるでしょう。
正しいことを言いますね。
2025年4月に65歳定年は義務化されたりはしません
そもそも定年とは
定年制とは、事業主と労働者の雇用関係が、あらかじめ定めた年齢に達した場合に自動的に終了する制度のことを言います。
定年年齢については高年齢者雇用安定法8条に定めがあり、「事業主がその雇用する労働者の定年の定めをする場合には、60歳を下回ることができない」とされています。
65歳定年義務化ということは、この高年齢者雇用安定法8条が「(定年は)65歳を下回ることができない」と改定されることになるでしょう。
しかし、そのような改定が2025年に向けて行われる予定はありません。
はい、ということで、もう結論が出てしまいました。
2025年4月に65歳定年は義務化されたりはしません 。
よって、今まで60歳定年制だった会社は、2025年4月になっても今まで通り60歳定年制のままで一向にかまいません。
高年齢者雇用確保措置
では、「2025年4月に65歳定年が義務化される」という話は、いったいどこから出てきた話なのでしょう?
その謎に迫るには、先ほど説明した定年という概念に対する理解と、もう一つとして高年齢者雇用確保措置についての理解が必要となります。
高年齢雇用確保措置とは
65歳未満の定年制を定めている事業主について、65歳までの安定した雇用を確保するために次のいずれかの措置を実施することが義務付けられています。
- 65歳までの定年の引上げ
- 定年の定めの廃止
- 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)の導入
このうち65歳までの継続雇用制度とは、65歳未満の定年を定めた場合に、その定年後に本人の希望があれば引き続き雇用する制度をいいます。
一旦定年退職としたうえで新たな雇用契約を結ぶ再雇用制度と、定年退職とはせずに引き続き雇用する勤務延長制度に分かれますが、どちらも定年を迎えることに違いはありません
令和2年「高齢者の雇用状況」(厚生労働省)によると、雇用確保措置を実施済みの企業のうち実に76.4%が継続雇用制度を導入しているとあり、定年の引き上げの20.9%、定年制の廃止の2.7%に比べて圧倒的多数を占めています。
継続雇用制度の経過措置
高年齢者雇用確保措置の義務化は2006年(平18年)4月1日から施行されましたが、当初は、雇用確保義務年齢は62歳であり、これが段階的に引き上げられて2013年(平25年)4月1日から65歳となるというものでした。
また、継続雇用制度については、労使協定により制度の適用対象者の基準を設けていれば、本人が希望する場合であっても、その基準に達しない者の継続雇用を行わないことが可能でした。
つまり、対象者を限定できる仕組みがあったのです。
(労使協定の締結が不調だった場合は、当分の間、就業規則により基準を設けることも可能でした)
これらはいわゆる経過措置だったわけですが、2013年(平25年)3月31日をもって継続雇用制度の対象者を労使協定により限定できる仕組みは既に廃止されています。
ただし、当該3月31日までに当該労使協定を締結していた場合は、次の経過措置が認められています
例えば、令和4年3月31日までの間は、63歳未満の者については希望者全員を継続雇用しなければなりませんが、63歳以上の者については労使協定の基準に適合する人に限定することができます。
2025年4月に何が変わるのか
継続雇用制度における経過措置は 、令和 7年(2025年)3月31日をもって終了します。
この日をもって、制度の適用対象者の基準を設けていた労使協定は役目を終え、 対象者を限定できる仕組みは完全になくなります。
そして、その翌日である令和 7年(2025年)4月1日からは、希望者全員を65歳まで継続雇用しなければならなくなるのです。
「2025年4月に65歳定年が義務化される」とは、おそらくはこのことを言わんとしているのでしょう。
しかし、65歳までの継続雇用制度とは、これまで見てきた通り、65歳未満の定年を定めた場合に、その定年後に本人の希望があれば引き続き雇用する制度をいいます。
つまり、定年年齢は65歳より前に置かれています。
例えば60歳を定年年齢と定めた場合に、その定年年齢後に引き続き希望者全員を65歳まで雇用しなければならない制度なので、65歳までの雇用確保義務はありますが、定年年齢が65歳に引き上げられるわけではありません。
なので、何度でも言いますが、 2025年4月に65歳定年が義務化されるという表現は誤りだと言わざるを得ないのです。
ほとんどの企業は2025年4月に何も変わらない
前出の令和2年「高齢者の雇用状況」(厚生労働省)によると、 継続雇用制度を導入している企業のうち、希望者全員を対象としている企業は74.5%とあります。
一方で、経過措置に基づき労使協定により対象者を限定できる仕組み採用している企業は25.5%とされています。
2025年4月1日に何かが変わるのは、継続雇用制度を適用している企業のうちの後者の企業だけです。
継続雇用制度を適用している企業のうちの前者の企業は何も変わりません。
更には、すでに「65歳までの定年の引上げ」を行っている企業と「定年の定めの廃止」 を行っている企業も何も変わりません。
繰り返しますが、2025年4月に何かが変わるのは、継続雇用制度を導入している企業のうち、経過措置に基づき労使協定により対象者を限定できる仕組み採用している企業だけなのです。
その数は、雇用確保措置を実施済みの企業のうち2割を少し切る程度にとどまるかと。
70歳までの雇用確保措置
さて、ここまで見てきた通り、65歳までの雇用確保措置は既に義務化されています。
そして、継続雇用制度の経過措置が無くなる2025年4月からは、それが完全な形となります。
しかし、その前の令和3年(2021年)4月に、高年齢者雇用確保措置に一つの改正があります。
65歳までの雇用確保 (義務) |
+ | 70歳までの就業確保 (努力義務) |
④と⑤は、自社で雇用するわけではないので「70歳までの雇用確保」ではなく「70歳までの就業確保」という言葉が用いられています。
また「70歳までの就業確保」は義務ではなく努力義務です。よって、未対応であっても法違反に問われることはありません。
とはいえ、厚労省のQ&Aには「措置を講じていない場合は努力義務を満たしていることにはなりません」とも記載されており、何もしていなければ行政による指導や助言の対象となることはあり得ます。
まとめ
2025年4月に「65歳定年義務化」はされません。
仮に 「65歳定年義務化」 となるならば、 65歳までの高年齢者雇用確保措置のうちの「③ 65歳までの継続雇用制度」が使えなくなり、この措置を講じてきた企業は、「① 65歳までの定年の引上げ」か「② 定年の定めの廃止」のいずれかの措置に切り替えなくてはいけないことになります。
実際、弊事務所でも「65歳に定年を引き上げなくては!」と血相変えて連絡してきた顧問先様があります。
「大丈夫ですよ。御社は現在、60歳定年制で、定年後に希望者全員を継続雇用する仕組みを採用しています。よって、法令上の義務は既にちゃんと果たしていますよ」と伝えると、とても安心したご様子でした。
聞くと、ネットに「2025年4月に65歳定年が義務化される」と書いてあるのを見て慌てて連絡してきたとのこと。
ネットの情報は玉石混交とは理解していたとしても、玉と石を見分けることは難しいものです。
これまで見てきた通り、2025年4月に何かを変えなくてはいけないのは一部の企業に限られます。
しかし、2021年4月には「70歳までの就業確保」の努力義務が始まりました。そしてそれは、そう遠くない将来に義務化されることも予想されます。
労働力の確保という観点からも、企業としてはいち早く高年齢者の積極的な活用を推進していく必要があるのかもしれません。
そのためにも、先ずは正しい情報を手に入れることがとても大切だと言えるでしょうね。